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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)676号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人浅田繁太郎の上告趣意は末尾添付の書面記載のとおりである。

論旨の主張するところは、原審は被告人が谷口豊三郎という架空の人物を東洋紡績株式會社の常務取締役に假装し同人名義の契約書及び領収書を偽造したものとして刑法第百五十九條第一項を適用しているが、実在しない他人名義を使用して文書を作成しても文書偽造罪とはならないのであるから、原判決には擬律錯誤の違法があるというのであるが、原審は所論のように被告人が谷口豊三郎名義の文書を偽造したことを認定したものではない。原審の認定した事実として原判決が引用した第一審の判決に示された事実によると、被告人は東洋紡績株式會社の名義を冐用して同會社作成名義の契約書及び領収書を偽造したのである。されば、同會社が実在する限り被告人の所為が文書偽造罪を構成することは論を待たないのであるから、原判決には所論のような違法はない。論旨は原判決の認定した事実に添わない非難であって理由がない。

よって刑事訴訟法第四百四十六條に從い主文のとおり判決する。

以上は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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